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2022/6/4 三ッ峠山(御坂口[登山口バス停]~府戸尾根~河口湖駅)
行程・地図は→ヤマレコ
1)  河口湖の北東にある三ツ峠山といえば太宰治で有名です。「富嶽百景」(昭和14)です。太宰は井伏鱒二の誘いで御坂峠にある天下茶屋に2か月ほど逗留した。御坂峠は甲府から東海道に出る鎌倉往還御坂路の途中にある峠で標高が1300mある。この逗留記が「富嶽百景」で、ここから見える富士は「むかしから富士三景の一つに数えられているが」「あまりにおあつらいむきの富士で」「まるで、風呂屋のペンキ画だ」とこき下ろしている。しかし何度も富士を見るにつれ「富士には月見草がよく似合う」とか「私の考えている「単一表現」の美しさなのかもしれない、と少し富士に妥協しかけ」たりする。鎌倉往還御坂路はその後近くに新御坂トンネルが出来て(国道137)、もうあまり使われなくなったが天下茶屋は今でもあり、11本出ている「天下茶屋行のバス」で行くことが出来る。三ツ峠山登山口は1つ前のバス停で、ここから1時間半ほど登れば三ツ峠山の山頂に立つことができる。 
2) 私は天下茶屋には昨日は行っていないのに、なぜ天下茶屋の話を長々としたかというと、「富嶽百景」にこうあるのだ。「私が、その峠の茶屋へ来て二、三日経って、井伏氏の仕事も一段落ついて、ある晴れた午後、私たちは三ツ峠へのぼった。三ツ峠、海抜千七百米。御坂峠より、少し高い。急坂を這うようにしてよじ登り、1時間ほどにして三ツ峠山頂に達する」。太宰はどんな道を登ったのだろう。これから太宰と一緒に三ツ峠山をご案内しましょう。ちなみに三ツ峠山は、単に三ツ峠ともいいます。これは峠ではなく山です。開運山・木無山・御巣鷹山の三山を合わせて三ツ峠。最高峰の開運山(標高1785m)のことを指すこともあります。■写真は、バスを降りて20分ほどの地点。標高1377m。人気の山で、この日も大賑わいでした。(2022/6/5)
3)太宰治は(というか「富嶽百景」には)、三ツ峠を登るのに「蔦かずら掻きわけて、細い山路、這うようにしてよじ登る私の姿は、決して見よいものではなかった」とあります。登山道とはそういうものです。しかし実際には、広くてよく整備された道が山頂近くまでずっと続いていて驚きました。標高差が500m以上あるのでそれなりの登りです。かえってだらだらと単調に登りが続くのも、つらいものがあります。
 4) そして、なんと車が走っていきました。標高1700mを超え、山頂に近い地点です。これは頂上にある山荘の車です。もちろん一般車両は通行止めで、滅多に走ってはいないでしょうが。とはいえ、周りは美しい広葉樹林帯でしかも野草の花が目立ちます。この山は、希少種を含めた花の山として有名ですが、確かに花が多いです。後からくる集団を先に行かせて、うろうろと花を観ながらのんびりと登っていきます。花はのちほど紹介することとして、先を急ぎましょう。頂上はどんな感じか。(6/6)
5) 登り始めて1時間20分、どうやら山頂に近づいてきたようです。森を抜けて視界が広がります。標高は1740mほどです。ここまで樹木や野草の花を見ながらのんびりと歩き、多くの人を先に行かせたので、だいぶ遅れているかと思いましたが、ペースとしては標準時間でした。この山に慣れている人が多かったのかもしれません。
6) 左が山頂に建つ三つ峠山荘。いよいよこれを登れば、山頂です。この日は全国的に晴れ。ここ最近ではもっとも天気予報が良かった日です。ずっと森の中だったので、展望はここまで全くありませんでした。日も射してきており、富士山の雄姿も観ることが出来るでしょう。太宰治が見た富士山はどんな感じでしょう。(御免なさい、時間切れで明日に続く)(6/7)
7) 太宰治が見た富士とは。。山頂で目に飛び込んできたのは、ががーん。富士山なのだが、半分以上雲に隠れています。至近距離なのに、である。太宰治は(というか「富嶽百景」では)どう描写しているか。「とかくして頂上に着いたのであるが、急に濃い霧が吹き流れて来て、頂上のパノラマ台という、断崖の縁に立ってみても、いっこうに眺望がきかない。何も見えない。井伏氏は、濃い霧の底、岩に腰をおろして、ゆっくり煙草を吸いながら、放屁なされた。いかにも、つまらなそうであった。パノラマ台には、茶店は三軒ならんで立っている。そのうちの一軒、老爺と老婆と二人きりで経営しているじみな一軒を選んで、そこで熱い茶を呑んだ。茶店の老婆は気の毒がり、ほんとうに生憎の霧で、もう少し経ったら霧も晴れるのと思いますが、富士は、ほんのすぐそこに、くっきり見えます、と言い、茶店の奥から富士の大きな写真を持ち出し、崖の端に立ってその写真を両手で高く掲示して、ちょうどこの辺に、このとおりに、こんなに大きく、こんなにはっきり、このとおりに見えます、と懸命に注釈するのである。私たちは、番茶をすすりながら、その富士を眺めて、笑った。いい富士を見た。霧の深いのを、残念にも思わなかった」。太宰治も、三つ峠からの富士の実物は見ていないのである。しかし、これ名文です。
8) 太宰の場合は濃霧というから、あたりは真っ白になって、全く何も見えなかったのでしょう。しかし、この日の場合は、霧ではなく雲。富士だけが雲に隠れていました。そしてもこの後もずっと隠れたまま。一方、反対側はこのとおり、すばらしい眺望でした。甲府方面。遠くに見えるのが、南アルプス。手前に見えるのが御坂主稜。この稜線のどこかに御坂峠があるはずです。そこから登ってきたわけです。ちなみに太宰は三軒の茶屋と書いていますが、今も三軒の山小屋があり、うち二軒は営業中でした。番茶は飲まなかったけど。(2022/6/8)
9) 三ツ峠の"山頂"は、なかなかユニークで快適だったので紹介しておきます。三ツ峠とは、三つの山の総称で、三角形に並んだピーク全体が広い"山頂"を形成していて、ここに山荘が3つ、展望スポットがいくか、そして岩場と広い草地があって花が咲き乱れていて、ここを巡るだけで楽しいです。この写真は、最初に富士山を眺めた中央の広場です。太宰治はここをパノラマ台と呼んでいましたが、それにぴったりです。今はその名は使われていないようですが。
10) パノラマ台の北東(左側)に、三つの山の最高峰の開運山が見えます。この頂上に人がたくさんいるのが見えます。登ってみましょう。
11) 開運山の頂上近くから、パノラマ台を見下ろしています。真ん中に見える広場がそうです。標高1800m前後の山の山頂は、狭い岩場だったり、逆に森になっていて展望が無かったりの場合が多いので、こういうゆったりできる"山頂"は得難いです。さらに、花が豊富とあって、四季を通じて、来たいものです。雪のこの山もいいかもしれません。(6/9)
12) 三ツ峠は花の多い山としても有名です。八十種もの植物が貴重種として記録されていると言います。目当ては花だったのです。ただし高山のお花畑のように一面の大群生(環境が厳しいので一種が占有する)というわけではなく、山地の様々な野草が咲く、というタイプのようです。ですから見つけるのは大変です。初めての山でしたので様子もわからずそうはうろうろできず、しっかりと撮影はできなかったのですが、それでも何種類かは写してきました。同定できていない花も多いのですが。■まずは、これ。黄色いスミレです。黄色いスミレは特定の高山が基本。まさか咲いているとは思いませんでした。拡大してみましょう。 
13)この黄色いスミレは、キバナノコマツメです。唯一、全国に分布する黄色いスミレです。といっても一定の標高および緯度以上に限られ、本州中部では標高1700m以上のみだそうです。山頂に咲いていました。 
14) スミレは横から、ということで写してみましたが、不鮮明。マクロレンズにすべきでした。一応持って行きはしたのですが、その余裕がなかったのが正直なところ。花の撮影に専念するために、この山は再チャレンジしたいと思います。(6/10)→「スミレたち」キバナノコマツメ
15) 三ツ峠に花の種類が多いのは、山頂に広大な草原があるからです。写真は三つ峠の三つの山の一つ木無山付近です。その名の通り木がないんですね。左右の柵は植生保護のため立ち入り禁止となっています。しかし岩場でもないのになぜ樹がないんでしょうか。この標高では森林限界でもありません。いろいろ調べてみたら、結局、薪炭のためのようです。人の手が入っていたから。50年前はスキーで降りられたと言います。ところが近年は、森林化して草地面積が少なくなって花が少なくなくなったと言われます。気候変動など他の原因もありそうですが、この山の"種の多様性"は人の手によるもの、ただし自然と共生する形での人の手。ヒトが自然の一部として行動した結果としての"種の多様性"なんですね。
16) 木無山の草地で目立っていたのは、この白い花でした。これは何でしょうか。
17) どうやら、シロバナノヘビイチゴのようです。これは初めて知りました。ヘビイチゴは、道端にもよく咲いていますが、黄色い花。こちらは、山の草地に咲く白い花。ヘビイチゴの実は味がなくてまずいですが、こちらの実は美味しいそうです。(2022/6/11)→「バラ科の野草たち」
18) 野草の花を続けて紹介しようと思ったが、うまく写っていなかったり、同定できなかったりで、撮影山旅としては悔いが残りました。次の山旅ではしっかり写そうと決意を新たにしたのでした。しかし、この山の下りは快適でした。いつも、下りが嫌で、山頂に立った後はワープして戻りたいと思うのですが、今回、下り標高差が1,000mを超えるとあって心配だったのですが、こんなに快適な下りは珍しいです。何より森が美しく、荒れた道が一切ない。こんな尾根道をすいすいと駆け下りたのでした。(6/13)
19)快適な下り道の美しい森です。これはミズナラ林のようです。ミズナラはプナと混生することが多いと言いますが、この山には生えていてもおかしくないブナはなぜか少ないようでした。この地点の標高はまだ1745m、これより上は、針葉樹が多かったです。コメツガやカラマツが多いようでしたが、しっかりと写すのを忘れてしまいました(眺望と花に夢中で)。
20) ミズナラは葉に特徴があるのですぐわかります。ちょうど花期ですが花は見つかりませんでした。むしろドングリを探したいものです。河口湖駅の標高は850m。この後、一気に駅まで下ることになります。(6/14) →ミズナラ

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